“よっぱらいの話”  『初々しい二人へ10のお題』より

          〜年の差・別のお話篇
             *お題シリーズですが、お兄さんたちは大学生Ver.です。
              ややこしいですが、悪しからず
 

この時期はそれでなくとも、
意外なくらいの高低差でもって、
暖かだったり寒かったりするのに翻弄されつつ。
三歩進んで二歩下がる的な進退を繰り返し、
その末に新しい季節がやって来るのではあるけれど。

 「何ちゅうか、
  もんの凄く堅く積もった雪は、
  熱ち熱ちの風を持って来ても なかなか退いてくんなくて。
  そいで、何回も何回も遠くまで一度下がって いきよいつけて、
  “え〜いっ”て体当たりしてるさいちゅーの春さんだと思うの。」

今年の二月三月が何とも妙なお日和なのへ、
時々小さなお手々や細っこい腕を振り回しまでして、
彼なりの描写で熱弁するマスコットくんなのへ、

 「凄いなぁ。セナくんて詩人さんになれるかも。」

王城大学アメフト部“シルバーナイツ”の様々な事務やら雑用やらを、
一際小柄な身でありながら、頼もしくも切り盛りしている女子マネさん。
皆が一斉にトレーニングプログラムを開始し、
慣れた手際でタオルだのスポーツドリンクの容器だの、
集めたり片付けたりも一段落したのでと。
手が空いたそのインターバルに、
いつものように応援と見学に来ていた愛らしい坊やの傍らに寄り、
他愛ないお喋りなぞ交わしていたのだが。
小さな瀬那くんがご披露くださった、
この冬への“見解”には、
思わずのこと“あららぁvv”と感心することしきりだったり。
自分から進んで入部した部だ、
右を向いても左を向いてもむくつけき荒くたい野郎どもばかりの環境が、
イヤだなぁとまでは思わないけれど。
逆に言や、体力的にも精神的にも何かと大変ではあれ、
女の子らしさを擦り減らしてまでかかるほど、
マネージャーのお仕事に振り回されちゃあいないものだから。
お人形さんのように愛らしくて無邪気なセナくんが、
高校時代からこっちのずっと、
寒かろうが暑かろうが、グラウンドまで来てくれるのはとっても嬉しいし、
こういうほのぼのした会話を交わせるのは、
正に“一服の清涼剤”だとも思うほど。

 「しじん?」

それってなぁに?と、
ほわほわの頬がスカジャンの襟元に着くくらい、
かっくりこと小首を傾げた坊やの稚さに。
ますますのこと、
キャ〜ンvvとお顔をほころばせたお姉さんよりも一呼吸早く、

 「可愛らしいことや楽しいこととか、
  優しい言葉で表現する人のことだよ?」

 「あ、桜庭さんだvv」

今日の皆さんが取り掛かっていたのは、
“サーキット・トレーニング”といって。
広いグラウンドのあちこちに、
ラダートリムのゾーンとか、古タイヤを並べたゾーンとか、
40mシャトルランを5本走るゾーンとかを設置して。
グループ別にずらしての1つ1つを1セットずつ順番に巡って、
色んなトレーニングを少しずつこなしてゆくというもので。
お邪魔にならないだけの距離は取ってある上での、
その順路の途中に置いてあったベンチだったので。

 「あ、もう1セット済まれましたか?」

どういうローテーションかにもよるけれど、
1周したらばインターバルというのが基本のトレーニングだ。
いけない、お喋りに気を取られてたと、
焦って立ち上がったお姉さんを
“まあまあまあ”と、手のひらかざす手真似つきで押し止めたのが。
スポーツマンアイドルとして、スポカジ・モデルにも引っ張りだこの桜庭さんで。

 「今日のみたいに
  頭数でこなした方がいいときは、新米さんに任せなって。」
 「えと…。//////」

確かに、桜庭さんがこっちへやって来たように、
それぞれの周回がバラバラに終わるせいで、
あちこちのゾーンの間近で、やれやれと休憩を取ってる人が出ておいで。
あれを全部、このお姉さんだけで回ってケアするのは大変だろし、
桜庭さんが言うまでもなく、
一回生らしい、ちょみっとおどおどしている顔触れが、
ポットやタオルを抱えてあちこちへ駆け回っているのも見えるから。
何か破綻があったら助けに行くということで、と。
あらためて進言したアイドルさんの言うのを飲んで、
苦笑しつつもベンチへ座り直してしまったお姉さんだったりし。
その代わりということか、記録用のバインダーをお膝に取り上げ、
回しっ放しになってたストップウォッチ、
チェックし始めておいでなの、横目で眺めつつ、

 「彼女が言ったように、
  セナくんはファンタジーとか書けそうな感性してるよね。」

額の生え際や首回り辺り、
うっすらと汗ばんでいたのをタオルで拭う桜庭さんが、
そんなことを言い出したので、

 「はんたじー? なるにやのお話みたいなの?」
 「そうそう、ナルニア国物語とかもそうだったね。」

はりー・ぽったーもファンタジーではあったっけねと、
微妙に眼中にはなかったような言いようをしてから、

 「あそこまで大活劇なんじゃなくってさ。
  妖精がお花の間を飛んでるようなとか、
  お陽様が暖かいのは春の神様がスイッチを切り替えたからだよなんて、
  そういうやさしい感じ方を軟らかい文章で表現してあったらさ、
  読んだ人も、気持ちがほこほこして来て幸せになれるだろ?」

 「しやわせ?」

ああ、それはセナも大好きな言葉ですと。
はにゃんと微笑ったお顔の、何ともまろやかで愛らしいことか。
ちょっぴり天然、あと、動作もたどたどしいものだから、
いつもあの小悪魔様に引っ張り回されているという感が強いものの、

 『ヒル魔くんはね、セナの言い方がトロいって。
  寝言言ってんじゃねぇなんて時々怒るけど、
  でもねでもね、いつも最後まで聞いてくれるんだよ?』

途中から怒ってるような、こぉーんなお目々になったりもするけどね、
なんてことを、
小さな指先で自分の両目の目尻を引っ張りあげて見せながら、
あははvvと楽しそうに微笑って言うあたり。

 “怖がられていないのか、
  怖がらせるつもりはないのがバレバレなのか。”

あの、そりゃあおっかないトンガラシ坊やさえ、
人のいいのがバレバレなことへも苦笑が絶えない桜庭が、
可笑くってしょうがないと目許を緩ませ、

 「ヨウちゃんは現実主義者だもんね。」
 「げんじゅつ……???」

はてはてと小首を傾げた坊やへ、現実主義者と繰り返してやり、

 「ほら、もしもとか例えばってお話を、ヨウちゃんは滅多にしないだろ?」
 「えっとぉ……。うん、しないの。」

  たまに持ち出したとしたらば、
  それってホントに例えばの話か?って思わせるような、
  おっかないことだったりするじゃない。

 『例えば、いま履いたシューズの底に、
  八百歩をアンダンテのテンポで踏み続けないと
  1分経たずに発火する仕掛けがしてあったらどうする?』

そんなおっかないことをペロッと言っちゃあ、
賊徒学園の皆さんのヤード走の記録を、
ほんの半年で底上げさせちゃった豪傑コーチなのは有名な話。
このセナくんと同い年、まだ小学四年生だっていうのに、
そこまで周到な“リアリスト(ん?)”なのも大したもんだが。
そんな小悪魔様でも、こちらの坊やには どこかで根負けしてござるのが、

 “それって無敵だってことになるの、判っているのかなぁ。”

潤みの強い眸、はにゃりと細め、
あっと何にか気づいて手を振る彼で。
何だ何だと肩越しにそっちを見返れば、
雄々しい肩を大して揺らさずの安定したフォームにて、
王城が誇る鬼神様…もとえ、ラインバッカーさんが、
ほのかに白い息つきながら、
トラックに沿ってのコースを軽やかに疾走中。

 「……………………ぁ。」×2

微妙に頬の線が動いたの、距離があっても判ったことへ、
女子マネのお姉さんと桜庭が、
ついつい顔を見合わせたのは言うまでもなくて。
寝言を言うなと小悪魔さんが言ったのと同様、
セナが何を言っているのか、
実は半分ほど判らないときもあると、時々こぼす進ではあるが、
(おいおい)
それでもそういう時のお顔はいつも、
今見たそれのように、どこか幸せそうな喜色に塗り潰されており。
一体どこが“困って”いるのやらと、
呆れるばかりの桜庭なんだそうで。

 “せいぜい惚気てりゃあいいさ♪”

あの進へ“惚気”なんて言葉を、
使う日が来ただけでも奇跡みたいなことだもの。
ふんわりして見えて、
実は…ヨウイチ坊やに鍛えられてか、結構 芯の強いセナ坊や。
鈍感なところをも受け止めてくれようから、と。
ちょっぴり風の冷たい中のトレーニングだというに、
苦笑が止まらぬ桜庭さんだったそうでございます。





  〜Fine〜 11.03.06.


  *そういや、若菜小春ちゃんは、
   随分と前に、セナくんたちのクラスメート設定にしちゃってた
   …ような気がしたので。(おいおい)
   今話の女子マネさんは、小春ちゃんではないということで。
   別に構わないかなとも思ったんですが、
   気がついてしまった以上、
   知らないじゃあ済まされませんからね。

  *そして、久々にご登場いただいた桜庭さんだったりも致しまし。
   進さんがなかなか出て来ない、
   困ったお部屋になりつつありますな。(ダメじゃん・笑)
   だって何だか、ウチの進さんて
   さほど特徴のある人じゃないような気がして来ましてね。
   いえ、何も“万国びっくりショー”なお話をばかり、
   毎回毎回書かんでもいいんではありましょうが。
   ルイヒルの“陰陽師”シリーズの進さんが一番書きやすいってどうよ。
   (あと、某国の皇太子の進さんとか…。)


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